NHK BS1 世界で一番ゴッホを描いた男 – 中国 深センの複製絵画村

先日、たまたまBS 1をつけたら、中国のゴッホ、とかいう番組をやっていて、画面には、ゴッホの模写がバンと映し出されていて。

これ一体なんだろうと、つい見てしまう羽目になりました。
中国には,世界中の名画の複製を作っている一大拠点があるといいます。

世界の名画 – 複製画の大半を制作している中国広東省の大芬村。

この番組はもともと、ドキュメンタリー映画で、昨年11月に都内のいくつかの映画館で、上映されていたようです。オランダ中国合作で、主人公は中国広東省、深センの大芬村(ダーフェンと読むらしい)に住む趙小勇さんです。

『世界で一番ゴッホを描いた男』(原題は『China’s Van Goghs』)

 

NHKBSでは、2013年に、すでに世界の名画複製村、ダーフェン、という番組を放映していたようで、この映画はさらに、ゴッホの複製を描き続けるひとりの画工を主人公にした物語となっています。(フィクションではなく、ドキュメンタリー)

来る日も来る日も、世界的名画の複製を村全体で描き続ける日々、まるで工場のよう

1980年代に香港から、この村に模写専門の画家を20人移住させたことから始まった、複製専門の一大拠点。

 

ファインアート関係の人にはよく知られた村なんでしょうか。

ここは複製画をまるで工場のごとく、大量生産する一大拠点なのです。一族全員、老若男女ほぼ全ての人々が、複製画を描く仕事で生計を立てています。

趙小勇さんは、あっという間に、誰でも見覚えのあるゴッホの絵を仕上げていきます。家族、奥さんや子供も皆、複製画を描く画工です。しかし賃金は安く、家族総出で描いても、少しも暮らしは楽になりません。

(ちなみに画工というのは、自分のオリジナルを描かない絵描きのことを言うそうです)

ちょっと顔の表情がオリジナルと違うな、と感じるのですが、これらの絵はオランダの土産物店で5000円程度から数万円程度で売られます。

ほとんどの人には、これで十分なのでしょう。ちゃんと油絵で描かれているし、まあまあ似ているし、安いし、部屋の空間を埋められればそれでいいと思っているのかもしれません。

どうしても本物が見たい。本当のゴッホの絵はどんなだろうとオランダ行きを決意する

 

でも毎日描き続けるうちに、主人公はだんだん疑問を感じてきます。

本物のゴッホをどうしても見たい。奥さんを説得して、何人かの画工とともにオランダへ行くのです。

 

そして、自分の描いた複製画が、7倍から10倍もの価格で売られていること、実物と自分の描いたものとのあまりの違いに衝撃を受けます。

 

番組中、ゴッホの実物画が、大きくクローズアップされて画面に映し出されるシーンがあります。

力強く描かれたマチエール。しっかりした構図と輝くような色彩の美しさ。独特の筆さばきから出来上がった小さな色片にいたるまで、まるで宝石のように美しいのです。

 

趙小勇さんは、一枚のゴッホをほんの数分で描きあげる職人なのですが、本物と自分の絵とのあまりの違いに大きなショックを受けます。そして自分が受け取っている安い賃金との価格差にもショックを受けるのですが。

自分のオリジナルを描くことの大切さ

現地で主人公が、ゴッホの複製画を描く専門家だと名乗ったところ、オランダの画商に、”わかった、いい腕だ、じゃあ、君自身のオリジナルを見せてくれ、と言われたんだ、と言うシーンがあります。

 

絵描きは、生活のためによく複製画-つまり売るための模写を描くことがあります。

それとは別に、自分のオリジナルの絵も描いているのが普通です。

でも趙小勇は、それを全くしていなかった。

貧しい農家の出で、小学校しか出ていない主人公は、絵とは何か、など学ぶ時間も機会もなかったでしょう。

 

このドキュメンタリーは、主人公が、少しずつ、自分のオリジナルの絵を描き始めたところで終わっています。

いつか認められるかもしれない、その希望を胸に、自分の生まれた村や、大好きな祖母など身近なものを描き続けていくのです。

 

イラストレーターも、オリジナルは必要だから

わたしは経験がないのですが、友人たちの中には、売れているイラストレーターの**さん風に描いてくれ、と言われた人がいます。

断った人もいるだろうし、描いちゃった人もいると思います。

クライアント側は商品を売るためには、こんなことを考えるし、絵描きはギャラのためにそう言う企画に乗ってしまうこともあるかと思います。

 

 

それから、複製や模写とは違うけど、大好きな画家やイラストレーターがいて、真似てるうちに、画風がそっくりになってしまうことがあります。

そして個展を開いたらそれが世間にも受け入れられて、売れっ子になっていくイラストレーターが実際にいます。

最初の頃は似ていても、描き続けるうちに次第に本人のオリジナルの描き方ができてくるので、戦略としては十分あり、なんですが。

なんだかんだ言っても、要領のいい人はいるし、そうやって、仕事を得るのも一つの手かな、とも思います。

 

まとめ:この番組を見ていて、考えたこと。

*中国に複製画の一大拠点。専業にしている画工がこんなにもいること。アートビジネスの一端を知ることができました。

*オリジナルの絵を描くのが一番大切、と思ってきたけれど、一方で、アートをビジネスとしてうまい汁を吸っている人がいると言うこと。しかも巨大市場があること。

*主人公の気づきは貴重だけれど、お約束のように、理想を語っているようにも思えます。理想だけでは、ご飯を食べられない。収入を得るために当分は複製を描き続けるしかないと言うこと。

 

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